記事: デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(後編)

デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(後編)
「Matcha」が世界的に大きく注目を集める今。最先端のデザインマネジメントを牽引しながら、国内外で長年にわたりクリエイティブな茶会を主宰してきた玉田俊郎先生(東京造形大学名誉教授)。
今回、ISSO TEAの「セレモニアルグレード抹茶」をご自身の茶会で大切に使ってくださっている玉田先生を迎え、ISSO TEAがじっくりとお話を伺いました。
現代のデザインマネジメントの第一線にいながら、お茶の本質を深く探求し続けるその視点。世界的な抹茶ブームの裏側にあるリアル、空間を「見立てる」という知的な遊び心、そして現代において私たちがリアルな「体感」を求める理由。
茶道が内包する圧倒的な精神性とデザインの結びつきを、前中後編(全3回)にわたりお届けします。

すべてを包含する総合芸術 — 茶道からインスパイアされるもの
ISSO: 先生は長年、インダストリアルデザインの教育や「デザインマネジメント」の普及活動に携わってこられました。非常に現代的でビジネスや産業に直結するデザインマネジメントという領域と、伝統的な「茶道」の世界は、先生の中でどのように結びついているのでしょうか。
玉田: 一見すると、最先端のデザインマネジメントと400年前から続く茶道につながりがないように見えるかもしれません。しかし、私の中ではこれらは同じ文脈で繋がっています。
デザインマネジメントの本質とは、単にモノの形を美しくすることではなく、「人々の体験や、空間、時間、そしてコミュニケーションのすべてを統合的にマネジメントし、価値を生み出すこと」にあります。
この視点でお茶の世界を眺めてみると、茶道こそが日本が世界に誇る「究極の総合芸術であり、完璧にデザインマネジメントされたシステム」であることに気づくのです。発想、美意識、精神性、味覚、動作、自然観、宗教観を包含する茶道があることによって、インスパイアされる部分があります。
スウェーデンでの茶会
AI時代だからこそ、私たちが「フィジカルな体感」を求める理由
機械が絶対に侵入できない「最後の2%」
ISSO: 現代はスマホやパソコン、デジタルやAIを使って効率よく完結してしまう時代です。その中で、あえて時間と手間をかけ、リアルにお茶会を開く意味はどこにあると思われますか?
玉田: それこそが、これからの人間に最も必要とされる「体感(フィジカル)」の価値だと確信しています。
AIはネット上にある過去の情報を集めて加工することは得意ですが、自ら五感を研ぎ澄ませて、ゼロベースから真に新しいクリエーション(創造性)を生み出すことはできません。デジタルは非常に便利ですが、現実のフィジカルな世界には入ってこれません。
日本のモノづくりやサービスの世界でも同じような話があります。半導体を洗浄する超高純度のフッ化水素や、精密なレンズ、スクリューの製造現場。
現代は98%までは最新のマシニング(機械)が自動で超精密に削り出しますが、製品の性能を決定づける「最後の2%」の微調整は、いまも熟練の職人による指先の触覚や感覚に委ねられているそうです。
この機械には真似できない人間の「繊細な感性(センシビリティ)」こそが、新しい文化を生み出す光なのです。
フィンランド茶会室礼:ヘルシンキ芸術デザイン大学(現Aalto大学)
お茶会という場所は、その最たるものです。 季節の移ろい、時間の流れを肌で感じ、花を探して飾り、お互いの時間、気配を共有する。
暁の茶会は、極寒の歳暮から2月にかけて行われ、朝の夜明けを楽しむ茶事です。蝋燭(ろうそく)を灯しながら、お点前を進めていきます。
暁の茶会では、お互いに言葉をほとんど交わしません。あえて「話さない」のです。会話によるコミュニケーションを意図的に排することで、所作によるコミュニケーションが行われ、人間の五感は極限まで研ぎ澄まされていきます。
茶釜のお湯が沸く「釜鳴り(かまなり)」の音に耳を傾け、袱紗を引き締める「塵打ち(ちりうち)」のように、所作、振る舞いの音だけで互いにコミュニケーションをとる。
こうした「ノンバーバル(非言語)なコミュニケーション」を通じて、その瞬間だけの空間を全員で共有するからこそ、私たちの感性は研ぎ澄まされ、自分自身を深く見つめ直すことができるのだと思います。
ポーランド日本情報工科大学(PJAIT)での茶会 正客、杉本宗苑さん
海外でも認められる「抹茶本来の美味しさ」と適正な淹れ方
抹茶そのものを味わう
ISSO: 先ほど海外での「抹茶ブーム」のお話がありましたが、海外の方々は抹茶の「味」そのものをどのように捉えているのでしょうか。
玉田: もちろん抹茶ラテは入り口として非常に人気ですが、実は、海外の方も砂糖の入っていない「抹茶そのものの美味しさ」をストレートに理解されていると感じます。 ヨーロッパの方々は普段からコーヒーや紅茶をはじめ、少し癖のあるハーブティーなども飲み慣れています。そのため、抹茶の持つ独特の風味に対しても親しみやすく、むしろ「美味しい」と感じる味覚の土壌を持っているように思います。
ISSO: 純粋に味わいとして楽しまれているのですね。
玉田: その通りです。ただ、それには「正しく作られた良いお茶であること」が前提になります。 美味しくないと思われているケースがあるとしたら、それはグレードがあまり高くないお茶だったり、あるいはシチュエーションや淹れ方が適当でなかったりした可能性が高い。私たちが飲むコーヒーと同じです。丁寧に焙煎され、適正な温度と淹れ方で抽出されたコーヒーは驚くほど美味しいですが、雑味があったり薄すぎたりすれば美味しくない。抹茶も同じなのです。
ドイツでの茶会
表千家と裏千家、点て方による味の違い
ISSO: 「美味しさ」の基準は、旨味や甘味のバランス、あるいは奥行きのようなものなのでしょうか。
玉田: そうですね。奥行きやバランス、そして「お湯の温度」が大きく影響します。 おもしろいことに、表千家と裏千家では抹茶の点て方に違いがあります。裏千家は茶筅(ちゃせん)をしっかりと振って、表面にきめ細かな泡をたくさん立てます。一方、私が所属する表千家は、あまり泡を立てません。抹茶とお湯を茶筅で程よく合わせるように、点てます。
良い茶葉を、石臼で丁寧に挽いたお茶は、経験の有無や国に関わらず、10人中8~9人が「美味しい」と感じる圧倒的な力を持っています。茶会でISSO TEAのセレモニアルグレード抹茶を使わせていただいた際も、まさにそのお茶本来の美しい味わい、豊かな旨味が引き立ち、参加された方々から「とても美しい色で、本当に美味しい」と大変素晴らしい反響をいただきました。
ポーランド日本情報工科大学(PJAIT)での茶道プレゼンテーション
未来への展望 — 文化の泉としての「茶道」を次世代へ
伝統の中に眠る革新を伝える
ISSO: 最後に、玉田先生がこれから手がけたいことや、日本、そして海外の方々へ伝えていきたいメッセージをお願いいたします。
玉田: 私は長年、デザインマネジメントという先進的な領域に身を置いてきましたが、年齢を重ねるにつれ、これからの人生のメインワークとして「国内外での日本文化の普及、特にお茶の精神の継承」に注力したいと強く思うようになりました。
ポーランド日本情報工科大学(PJAIT):
日本の美意識を理解するための枯山水をデザインするワークショップ
日本の茶道文化は、発想、美意識、精神性、デザインやアートを含めたすべてのクリエイティビティにおいて、尽きることのない「文化の泉」のような存在です。400年以上前の利休たちが、それまでの固定観念を壊して新しい美意識を打ち立てたように、伝統の根底には常に「革新」がありました。形式をただ守るだけでなく、その柔軟な発想や精神性を国内外に伝えていくことが、私の役目だと感じています。

誰もが本質に触れられる「場所」を創る
玉田: これまでは大学という組織の中で学生たちに教えてきましたが、今後は国内外問わず、より多くの方がお茶の本質に触れられる「場所」を個人的にも作っていきたいと考えています。 ポーランドでも新たなプロジェクトを計画しています。このように、国境を越えて情熱を持つ人々がつながる場所をプロデュースしていくことは、私にとっても非常にやりがいがあり、楽しい挑戦です。
基本の精神さえしっかりと押さえていれば、お茶はもっと自由で、もっと現代の私たちの創造性を刺激してくれるものになります。ISSO TEAのお茶が持つ本物のクオリティと共に、これからも世界へ、そして次世代へ、この豊かな体感の文化を届けていきたいですね。
ISSO: 先生のこれからの新しい挑戦、そしてISSO TEAがその一翼を担えることを、心から楽しみにしております。本日はとても貴重なお話をありがとうございました。

玉田俊郎
1957年福島県生まれ。
東京造形大学デザイン学科卒、筑波大学大学院芸術研究科生産デザイン専攻修了。
東京都立産業技術研究センター、東北芸術工科大学助教授、ヘルシンキ芸術デザイン大学(現Aalto大学)客員教授を経て2006年より東京造形大学に着任。専門領域はインダストリアルデザイン、デザインマネジメント。地域産業のプロデュース、デザイン開発研究を進める。
2014年~2018年 東京造形大学副学長。2023年、東京造形大学名誉教授。
2020年「一般社団法人 日本デザインマネジメント協会」設立 代表理事。
表千家同門会 准教授 / 茶名、玉田宗俊。
著書に『リージョナル・デザイン:フランス・ブルゴーニュの「クリマ」から学んだこと』(共著/現代企画室, 2018年)、 『ICONIC WORLD』(東方出版, 2020年)、 『デザインマネジメントの指標と日本デザインマネジメント協会の設立―INDUSYRIAL ART NEWS NO.60+産業工芸研究 NO.42』(一般財団法人 工芸財団+日本工芸技術協会, 2023年)、 『デザインマネジメント 7つの指標 DESIGN DYNAMISM』(一般社団法人 日本デザインマネジメント協会)、『古代視覚文化を巡る旅-原初的風景と信仰のアイコン』(文 玉田俊郎 写真 中里和人・松田真生/FUIGOLAND LLC発行 (一社)日本デザインマネジメント協会発売 2024年:大神神社三輪山文庫収蔵図書)など。



