記事: デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(中編)

デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(中編)
「Matcha」が世界的に大きく注目を集める今。最先端のデザインマネジメントを牽引しながら、国内外で長年にわたりクリエイティブな茶会を主宰してきた玉田俊郎先生(東京造形大学名誉教授)。
今回、ISSO TEAの「セレモニアルグレード抹茶」をご自身の茶会で大切に使ってくださっている玉田先生を迎え、ISSO TEAがじっくりとお話を伺いました。
現代のデザインマネジメントの第一線にいながら、お茶の本質を深く探求し続けるその視点。世界的な抹茶ブームの裏側にあるリアル、空間を「見立てる」という知的な遊び心、そして現代において私たちがリアルな「体感」を求める理由。
茶道が内包する圧倒的な精神性とデザインの結びつきを、前中後編(全3回)にわたりお届けします。

空間を「見立てる」知的な遊び心 —— 伝統と革新の融合
深くお茶を理解する、ポーランドのウラ マハ ブライソン先生
ISSO: お茶の作法にある「清め」や「結界」といった日本のハイコンテクストな精神性は、生まれ育った背景や言葉の違う海外の方々にも、ダイレクトに伝わるものなのでしょうか。
玉田: 結論から言うと、真摯に実践すれば、生まれ育った国に関係なく、日本と同じように深く理解されることがあります。それを強く実感したのが、ポーランドでの経験でした。
ワルシャワ大学には、日本の文化を総合的に学ぶ「日本学科」という学科があり、そこには「懐庵(かいあん)」という非常に本格的な茶室が設けられています。そこで指導されているのが、ウラ マハ ブライソン先生というポーランドの女性です。
彼女は日本語が大変堪能なだけでなく、もう20年、30年と裏千家を深く学ばれている大ベテランなのですが、彼女のもとで学ぶ現地の学生たちの所作やお茶に対する心持ちを見ていると、「ああ、本格的な環境で正しく実践すれば、ここまで深くお茶の心が宿るのだな」と、私の方が感動させられました。
フィンランドのテキスタイルで茶室を創る
ISSO: 先生はフィンランドやスウェーデン、ドイツなどでもお茶会を主催されていますが、現地ではどのような空間を作られているのですか。
玉田: 海外には固定された茶室がないことの方が多いですから、現地にある環境や素材を活かして、その場を茶室空間へと「見立てる」工夫をしています。
例えばフィンランド。ここは織物やテキスタイルの文化が非常に豊かな国ですから、現地の美しいテキスタイルを天井から吊り下げて空間を囲い、茶室を構成しました。ドイツの大学の講堂では、紙で作られた畳を敷き、紙を使って露地を表現したり。スウェーデンでは、ノーベル博物館の近くにある重厚な建物の中に、日本から持参した木と障子でできた折りたたみ式の簡易茶室を組み立てました。
ISSO: 国内でも、独自のテーマを持ったクリエイティブな茶会を開かれているそうですね。
玉田: はい。どこでやっても同じようなお茶会にするのではなく、その土地ならではの特徴や独自性をテーマに仕立てるのが楽しいのです。
以前、三重県の多気町にあるギャラリー sana villageという場所で茶会を催した際は、そこにある『辰砂(しんしゃ)の部屋』という空間を舞台にしました。 辰砂というのは、水銀からなる非常に貴重な赤色の鉱物(顔料)です。
中央構造線辰砂へのオマージュ小屋での茶会
たとえば奈良の富雄丸山古墳で発見された蛇行剣(だこうけん)の周囲などにも、永遠の色としてこの辰砂が敷き詰められていました。古墳時代の壁画などにも塗られていた、日本にとって非常に歴史的価値のある特別な「赤」です。
そのお茶会では、石の写真をタイルカーペットにプリントして土間に敷き詰め、辰砂の赤が持つ厳かな世界観と融合させた創作的な空間を作りました。
普通の茶室でやる良さとはまた別に、その土地柄が持つ文脈を活かせれば、圧倒的に豊かな時間を共有できるのです。
ISSO: 現地のカルチャーや環境に合わせて、その瞬間の空間を創造されるのですね。
玉田: そうです。お茶の素晴らしい特徴は、亭主の趣向次第で「どこにでも茶室空間を立ち上げられる」というモバイル性にあります。
かつて千利休も、戦国武将が遠方へ赴く際にお茶道具一式をコンパクトに収納して持ち運べる「旅箪笥(たびだんす)」を考案しました。武士たちは死と隣り合わせの戦を前に、最後の一服になるかもしれないお茶を飲むことで、深く精神を落ち着かせていたのです。
お茶の歴史を紐解くと、元々は高価な青磁や白磁(舶来品)を並べて権威を誇る喫茶から出発しました。
しかし、利休たちはその価値観をブレイクし、「いや、素焼きの器や、歪んだ楽茶碗のような侘びしいものの中に、至高の美がある」というパラダイムシフトを起こした。
この圧倒的な革新性があったからこそ、茶道は400年以上経った今でも古びずに、クリエイティブであり続けているのです。
牡蠣殻の枯山水と、青く光るLED
ISSO: 先生のお茶会を拝見していると、伝統を大切にされながらも、アヴァンギャルドな試みをされていますね。
玉田: 私は、形式通りにやるよりも、その土地柄や特徴を活かしてテーマを立てるのが楽しいと感じるのです。 以前、三重県の鳥羽でお茶会をした際は、そこが牡蠣の産地でしたので、牡蠣殻(かきがら)を届けてもらい、それを四角盆に砂を敷き牡蠣殻を配置して「枯山水」を作りました。四角盆を自分で作り、貝の中には小さな 青色LEDライトを仕込んでみました。
「格式高いお茶の世界で、そのような大胆なことをして批判されませんか?」と聞かれることもありますが、実はお茶のお家元や権威の方々は、こうした冒険的な試みを決して否定せず、むしろ深く理解してくださいます。
長きにわたる伝統の根底に革新のDNAがあるからこそだと思います。
「茅の浮舟の茶室」命名:玉田俊郎 写真提供:中里和人
(つづきます)
玉田俊郎
1957年福島県生まれ。
東京造形大学デザイン学科卒、筑波大学大学院芸術研究科生産デザイン専攻修了。
東京都立産業技術研究センター、東北芸術工科大学助教授、ヘルシンキ芸術デザイン大学(現Aalto大学)客員教授を経て2006年より東京造形大学に着任。専門領域はインダストリアルデザイン、デザインマネジメント。地域産業のプロデュース、デザイン開発研究を進める。
2014年~2018年 東京造形大学副学長。2023年、東京造形大学名誉教授。
2020年「一般社団法人 日本デザインマネジメント協会」設立 代表理事。
表千家同門会 准教授 / 茶名、玉田宗俊。
著書に『リージョナル・デザイン:フランス・ブルゴーニュの「クリマ」から学んだこと』(共著/現代企画室, 2018年)、 『ICONIC WORLD』(東方出版, 2020年)、『デザインマネジメントの指標と日本デザインマネジメント協会の設立―INDUSYRIAL ART NEWS NO.60+産業工芸研究 NO.42』(一般財団法人 工芸財団+日本工芸技術協会, 2023年)、 『デザインマネジメント 7つの指標 DESIGN DYNAMISM』(一般社団法人 日本デザインマネジメント協会)、『古代視覚文化を巡る旅-原初的風景と信仰のアイコン』(文 玉田俊郎 写真 中里和人・松田真生/FUIGOLAND LLC発行 (一社)日本デザインマネジメント協会発売 2024年:大神神社三輪山文庫収蔵図書)など。



