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記事: デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(前編)

デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(前編)
ENJOY ISSO TEA

デザインと茶道が織りなす、伝統の革新と世界への広がり — 玉田俊郎先生に聞く(前編)

「Matcha」が世界的に大きく注目を集める今。最先端のデザインマネジメントを牽引しながら、国内外で長年にわたりクリエイティブな茶会を主宰してきた玉田俊郎先生(東京造形大学名誉教授)。

今回、ISSO TEAの「セレモニアルグレード抹茶」をご自身の茶会で大切に使ってくださっている玉田先生を迎え、ISSO TEAがじっくりとお話を伺いました。

現代のデザインマネジメントの第一線にいながら、お茶の本質を深く探求し続けるその視点。世界的な抹茶ブームの裏側にあるリアル、空間を「見立てる」という知的な遊び心、そして現代において私たちがリアルな「体感」を求める理由。

茶道が内包する圧倒的な精神性とデザインの結びつきを、
前中後編(全3回)にわたりお届けします。

留学生の一言から始まった、茶道との出会い

「日本の文化を紹介してほしい」

ISSO TEA(以下、ISSO): 玉田先生、本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは先生が、デザインの世界からどのように茶道と出会われたのか、その歩みをお聞かせいただけますか。

玉田先生(以下、玉田): 私の専門はインダストリアルデザインの研究・教育で、国内外の芸術大学で長く教鞭を執ってきました。現在は「日本デザインマネジメント協会」を立ち上げ、デザインの普及活動を行っています。

実は、私が茶道に関わり始めたのは筑波大学の大学院時代でした。当時、大学院には多くの留学生が在籍しており、彼らと友人になったのですが、ある時「日本の文化を紹介してほしい」と頼まれたのです。その瞬間、自分自身が日本の伝統について何も深く知らないことに気づき、「これはいかんな」と痛感しまして(笑)。

ちょうど学内に「茶道会館」という建物がありましたので、そこへ行けば何か学べるだろうと飛び込んだのが始まりです。そこで裏千家のお稽古を他の学生たちと一緒にスタートしました。

金沢での茶会

ISSO: 華道や書道など様々な選択肢がある中で、なぜ「茶道」だったのでしょうか。

玉田: 茶道という文化は、単にお茶を飲む行為にとどまらず、空間のしつらえ、道具の造形、お菓子、そしておもてなしの所作まで、すべてが緻密に構成された「総合芸術」だからです。それが、私の専門であるインダストリアルデザインの領域と非常に深く関連していると感じ、個人的にも強い興味を持ちました。

その後、大学院を出て就職してからもお茶を続けたいと思い、縁あって表千家の先生に師事することとなり、今日に至ります。

よく表千家と裏千家の違いを尋ねられますが、元を正せば千利休という一つの源流から分かれたもの。おもしろいもので、歴史を振り返ると、伝統を重んじながらも、明治時代初期に椅子とテーブルで行う「立礼(りゅうれい)」という新たなスタイルが考案されるなど、時代に合わせた革新的な変化を遂げながら今に繋がっているのです。

グラス・リフレクション展

東京造形大学付属横山記念マンズー美術館「グラス・リフレクション展」

世界的な「抹茶ブーム」と、私たちの「敷居の高さ」

海外が寄せる高い関心

ISSO: 現在、世界各地で「抹茶(Matcha)」に大きな関心が寄せられています。海外へよく行かれる先生は、現地での様子をどう感じていらっしゃいますか。

玉田: 非常に高い熱量を感じますね。ポーランドを訪れた際に、koseiというカフェに行きましたが、抹茶を介して飲料やスイーツなどさまざまに展開されていました。

現地の文化とフュージョンしてユニークであり先進性を感じました。それだけ抹茶には文化的背景も重なり多様性と親和性があるのだと実感しました。ある意味で抹茶はプレミアムな価値を有していると言えるでしょう。

ポーランド カトヴィツェ kosei

ポーランド カトヴィツェ [kosei]

「ブーム」と「茶道人口」のギャップ

ISSO: 抹茶が身近になっていくことで、茶道への関心も高まっているのでしょうか。

玉田: そこが非常に興味深いところで、「カジュアルな抹茶ブーム」と「伝統的な茶道の精神」の間には、まだ比例していないギャップがあります。抹茶ラテなどは世界各地で愛されていますが、本格的な茶道となると、一気に敷居が高く感じられてしまう。

私が大学で茶道部の顧問をしていた時も、やってみたいという若い学生はたくさんいました。しかし、いざ卒業してから一般のお稽古場へ通うとなると、途端にハードルが高くなってしまうようです。

「着物を着なければならないのではないか」「着付けや道具にお金がかかるのではないか」という、外側の形式やルールの堅苦しさが先行してイメージされているのでしょうね。

三重県鳥羽 かどやでの茶会

三重県鳥羽「かどや」での茶会 写真提供:中里和人

作法が持つ真の意味 — 美、合理性、そして「清め」の精神

袱紗を畳み、道具を拭く仕草の理由

ISSO: お点前を拝見していると、袱紗(ふくさ)を折り畳み、茶器や茶杓を拭く細やかな作法があります。その動きには、どのような意味があるのでしょうか。

玉田: 動きを美しく見せること、そして無駄のない合理的な動作であること、その両方の意味があります。しかし最も本質的な意味は、空間と心を「清める(Purify)」という精神性にあります。

日本の美意識における「清める」とは、単に物質的な埃を払って清潔にするという意味だけではありません。丁寧な所作を繰り返すそのプロセスそのものを経て、自分の心の中にある邪念や雑念を払い、精神性を高めていくというアプローチなのです。

ポーランド日本情報工科大学(PJAIT)での茶会

ポーランド日本情報工科大学(PJAIT)での茶会

茶室へ至る「結界」の仕組み

玉田: 茶室には「露地(ろじ)」と呼ばれるお庭があり、お客様は外露地から内露地を通って茶室へと進みます。この過程にはいくつもの「結界」が設けられており、小さな「にじり口」をくぐることで、現実世界の身分や世俗の雑念を完全に切り離す仕組みになっています。

こうした全体像にあるストーリーや精神性を理解すると、断片的な作法の一つひとつが綺麗に繋がり、お茶の本当の奥深さが見えてくるのです。

ワルシャワ大学 懐庵

ワルシャワ大学「懐庵」

 

つづきます)

 


 

玉田俊郎

1957年福島県生まれ。
東京造形大学デザイン学科卒、筑波大学大学院芸術研究科生産デザイン専攻修了。
東京都立産業技術研究センター、東北芸術工科大学助教授、ヘルシンキ芸術デザイン大学(現Aalto大学)客員教授を経て2006年より東京造形大学に着任。専門領域はインダストリアルデザイン、デザインマネジメント。地域産業のプロデュース、デザイン開発研究を進める。
2014年~2018年 東京造形大学副学長。2023年、東京造形大学名誉教授。
2020年「一般社団法人 日本デザインマネジメント協会」設立 代表理事。
表千家同門会 准教授 /  茶名、玉田宗俊。

著書に『リージョナル・デザイン:フランス・ブルゴーニュの「クリマ」から学んだこと』(共著/現代企画室, 2018年)、 『ICONIC WORLD』(東方出版, 2020年)、『デザインマネジメントの指標と日本デザインマネジメント協会の設立―INDUSYRIAL ART NEWS NO.60+産業工芸研究 NO.42』(一般財団法人 工芸財団+日本工芸技術協会, 2023年)、 『デザインマネジメント 7つの指標 DESIGN DYNAMISM』(一般社団法人 日本デザインマネジメント協会)、『古代視覚文化を巡る旅-原初的風景と信仰のアイコン』(文 玉田俊郎 写真 中里和人・松田真生/FUIGOLAND LLC発行 (一社)日本デザインマネジメント協会発売 2024年:大神神社三輪山文庫収蔵図書)など。

 

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